2007年7月22日日曜日

人間国宝

重要無形文化財保持者,いわゆる人間国宝の今年度の認定があった.
今年は長くその芸に接してきた人たちが受賞することもあり,人間国宝のあり方について改めて考えた.

狂言の野村万作,文楽の太夫,竹本綱太夫に三味線の鶴澤清治.
学部生の頃からなので,かれこれ15年,機会のある度に接してきた人たちだ.

野村万作はいまやすっかり息子である萬斎のパパとして認知されている.
かつては,兄である萬(その前は父の名をついで万蔵,さらに前は万之丞)とともに舞台に立つことが多く,兄が少ない動きで多くの情景を目の前に現すとすれば,万作は技巧派として演じるのが難しい釣狐や木六駄を得意としていた.

阪神大震災の直後,兄の万蔵とともに生駒で演じた「石切」は,すばらしかった.
兄の万蔵演じる妻に手を引かれる盲の役を演じたのだが,真に迫る動きだった.
万蔵の静に対する動の演技がかみ合い,どちらが欠けても成立しない舞台といえよう.

しかし,息子の萬斎襲名をめぐり現在は絶縁状態のようで,二人がともに舞台に立つことはもうないのだろう.
それぞれの息子はどうも狂言以外の活躍がメインになってしまって,かつて彼らの舞台を見たとき,その芸に失望したことを覚えている.

万作はいつかは人間国宝をもらうに値する芸だと思っていたけれど,もう彼らの息子の時代になると,演じる狂言役者も見る観客もレベルが落ちていて,名人なんて言葉は消滅してしまうのだろう.
形骸化した伝統芸能を形骸化した認定制度によって維持していくというのも悲しいものがある.

世襲によって芸が受け継がれていく狂言に比べると,競争原理が導入されている文楽の状況はまだマシかもしれない.
今回は二人が人間国宝に認定されたが,少なくとも太夫ではあと一人,認定されてもおかしくない嶋太夫が残されている状態だし,三味線も野澤錦糸や鶴澤燕三など次代の有望株がいる.
今回認定された三味線の清治氏については,誰も疑う余地のない芸を持つ人だ.

ただ,認定についてやや問題なのが綱太夫だろう.
かつて病気をしてから,どうにも声が出ず,近年の舞台は調子が上がってきていたとはいえ時に聞くのがつらくなるような舞台もあった.
好意的に解釈すれば,先代の綱太夫の芸を伝えていく伝承者としての役割に積極的な評価を与えたということだろうか.

文楽自体,歌舞伎や能狂言に比べると,存続自体の危機に瀕しているといえる.
華々しい活躍の舞台が歌舞伎や狂言役者にはあるのにくらべて,人形遣いが大河ドラマに出るわけないし,文楽の人形遣い,太夫に三味線弾きは,文楽に専念するしかない.
それが他の伝統芸能のように,安易な異業種交流に流れることを防いでいるともいえるのだが.

あぁ,文楽見たいな,久々に.
関西に住んでたときはよかった.
神戸から1時間で文楽劇場に行けたもんな.
仕事の後でも見に行けた.

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