2007年8月2日木曜日

複製芸術の話

複製芸術は,ベンヤミンの考察以降,20世紀の芸術を語るうえでもはや当たり前になっている.
レコードという再現メディアの発達について,徹底的に考えたのが今年で没後25年になるグレン・グールド.
そのグールドのデビュー盤で,1955年に録音された記念碑的名盤であるゴールドベルグ変奏曲の新録音が登場した.

この曲の録音は,若干のライブ盤は別として1955年と1981年盤が存在していて,そのどちらもかけがえのない演奏だ.
今回新たに発売されたCDは,この1955年盤をそのタッチやペダリングまでデータ解析して,MIDIピアノで再現した演奏を録音,発売したものである.



発売直後は買う気にもならなかったのだが,先日天神に出かけた折に気が変わって購入してみた.
なにより,モノラル録音の1955年盤がステレオになっているのは,聴きやすいし,ほとんど使わなかったグールドによるペダリングなど,あらためて発見した箇所も多い.

とはいえ,グールドの録音にお決まりの彼のうなり声がないのも,異様な気にさせるのは確か.
いろいろHPを見ても,辛口のレビューが多い.

しかし,もともと一回きりのライブの演奏を排して,自らの納得いく完璧な演奏を編集に編集を重ねたうえで発売するグールドの姿勢に照らせば,この演奏も彼の意図を「ひとつの形」で再現したものと充分言えるのではないだろうか.

2005年がゴールドベルグのデビュー盤から50年ということで,旧録音をリマスタリングした企画盤が売り出されていて,没後25周年はどんな企画が出るのかと思ったら,案外彼の思想を考えるために面白い企画が出てよかった.

ということで,ここ数日はほとんどゴールドベルグ三昧なのである.

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