飛行機に乗るときは,かつて大部の本を一冊持ち込んで読みきることが多かった.
池澤夏樹の「マシアス・ギリの失脚」やカズオ・イシグロの「日の名残」(これは英書で)は,かなり集中して読みきったもので今でも鮮明に覚えている.
しかし,ここ数年は出発前に充分時間が取れなくなり,結果として徹夜で荷造りすることが増えたせいで,機内で本を読むどころかひたすら寝ることが多くなった.
今回もその例に漏れなかったわけだが,ライデンの本屋で書籍を購入していたときゴンブリッチの書いたThe Story of Artの携帯版が出ていたことに気づき,17年振りのフィレンツェ訪問を目前にトスカーナの旅の供にと考えて購入した.
さほど豊かでない西欧芸術に関する知識を形成する上で,まずお世話になったのがケネス・クラークの「芸術と文明」であり,ゴンブリッチのこの本だった.
その歴史的な深さ,地域的・時代的な多様性ゆえ,西欧芸術を一人の人物がまとめて論じることは非常に難しいだろうことは容易に察しうる.
しかし,その例外が,なぜか英国で活動したこの二人の芸術史家なのだ.
しかもゴンブリッチの場合,東洋美術への言及もあり,目配りの範囲は相当広い.
携帯版とはいえ大部な書物であるこの本をえっちらおっちらイタリア旅行中持ち歩き,結果として読み進めたのはわずか数ページ.
日中は実物を見るのに忙しく,夜は疲れて本を読むどころではなかったのが正直なとこ.
せめて帰りの機内でと決意したのだが,あまりの疲労困憊と機内の寒さに早々にダウンした.
とはいえ,ケネス・クラークといいゴンブリッチといい,ひとつの芸術作品を特定の時代様式にあてはめて説明をすますのではなく,まずなによりも実際の作品に即してその特徴を論じたうえで,時代を超えた共通性にまで言及している点は,今読み返しても新鮮である.
少しだけ読み進めた北方ルネッサンスの箇所など,とりわけ面白い.
さて,帰国した現在,当然この本を読み終える暇などなく,今は15日までに提出の雑文に取り掛からねばならない.
つまみ食いでぼろぼろになったこの本だが,一体いつになったら読み通すことが出来るのだろうか…
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