2010年1月7日木曜日

読書のリズム

年末からとりかかっていた「第三帝国と音楽家たち」を昨日やっと読了する.
ある期間,本を一冊読み切る行為を繰り返さないと,読みの感覚とでもいうべきものを忘れてしまうようで,今回もリズムを取り戻すのにずいぶんと時間がかかった.

さて,この本だが,アングロ・サクソン系の社会史に見られるように,網羅的ではあるが,ややエピソードの羅列に終始している印象を抱いた.
しかも,著者のケイターは,翻訳が正確であることを仮定してだが,随分と糾弾調の描き方をしている.

本人は多くの資料を基に,第三帝国下での音楽家たちの客観的な実像を描くことを繰り返し述べているのだが,実際に描かれているのはこれまでの通説的見解を否定しているだけのように思われた.

一例として,フルトヴェングラーの実像を厳しく描くのはいいのだが,とりたてて新しい事実を提示するというよりも,シュトラウスを持ち上げるためにのみ否定的に描かれているのは,学会賞を受けた著作にしてはお粗末だ.

結局,教育におけるナチスの影響を述べた第4章も系統的に分析がなされているわけでもなく,多くの事例の中に論旨が埋没してしまい,タイトルでもある「第三帝国と音楽家たち」の全体像を描ききったとは言えないのではないだろうか.
音楽的分析は皆無で,その点もやや不満ではある.

とはいえ,訳者によれば,この本は同様のテーマを扱った他の著作よりも包括的であるとのことであるから,他の著作を読んでみてあらためて評価してみようとも思うのだが,そんな余裕あるかな...

0 件のコメント: