2009年8月22日土曜日

最近見た映画

上海の伯爵夫人

監督:ジェームズ・アイヴォリー
主演:レイフ・ファインズ,ナターシャ・リチャードソン他
2005年上映

日の名残のカズオ・イシグロによる原作を映画化.
製作のマーチャント&アイヴォリーは,E.M.フォースターの一連の作品を映画化しており,学生時代からこのコンビの作品は楽しみにしてきた.

フォースターにも,カズオ・イシグロにも共通するモチーフが作品を貫いていて,それは古い世界と新たな世界の接触だ.
フォースターの場合,それは異文化との接触(インドへの道,眺めのいい部屋)や階級差(ハワーズ・エンド,モーリス)を通して描かれることが多く,古い世界はしばしば崩壊する世界として描かれる.

カズオ・イシグロの日の名残も,アンソニー・ホプキンス演じる執事は,古い世界が絶対的なものと信じることにより,個人的な幸せを逃し,仕えている主人の悲劇を目の当たりにする.
最終的に彼に崩壊した古い世界を擬似的に提供するのは,新大陸アメリカからの成上りなのだ.

上海の伯爵夫人も,過去の古い世界にしがみつく伯爵夫人の義理の両親が戯画的に描かれており,主人公の元外交官も失明したことで過去の世界に沈殿し,生きている.
彼らの古い世界を文字通り暴力的に断ち切ったのが,日本軍の上海侵攻となる.

真田広之演じるマツダが,古い世界を断ち切る上で重要な役割を演じているのだが,いまいちキャラクターが掘り下げられていなかった.
カズオ・イシグロの場合,設定を限定した上で登場人物の性格や真理描写を濃密に描くほうが得意なのかもしれない.

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